期間限定 ふんわり風俗嬢の内緒話

ひょんなことからまさかの風俗業界に足を踏み入れた、新米風俗嬢の内緒話です。

笑えなかった私

私はこの仕事に就くまで、笑顔になるのが苦手な人間だった。

入店初日は恐怖と疑いと不安の塊でさらにガチガチになっており、おそらくスタッフは「本当に大丈夫なのか、この娘?」と「使えない娘」の烙印を押しそうになっていたと思う。
とあるスタッフはあまりに気の毒に思ったのか、私のほっぺをブニブニと引っ張り、リラックスできるよう促してくれた。
いまならそれがどんなに有難かったことかよくわかる。
でもその時にはわからずに「なんで私に触るの!セクハラ!」と内心毒づいていた。

初日を終えて、私は「笑えない」というのは非常にまずい状況だと危機感を感じた。
それからは出勤すると、待機室の支度台の真ん中に常に大きな鏡を置き、暇さえあれば笑顔の練習とフェイスストレッチをするようになった。待機の間に眉間にシワがよったり、不機嫌な顔にならぬよう、文字通り自分の顔ばかり見て笑っていた。もし、誰かに覗かれていたら、相当頭のいかれた女に思われていただろう。

外見の笑顔作りだけでなく、内面も変化する努力をした。
接客をしている間だけは、完全に源氏名の自分になりきり、罪悪感や不安など仕事をする上でネガティブなことは全て一時忘れることにした。
そしてお客様を笑顔に、楽しませる為に、まずは自分が嫌々仕事をするのをやめる努力をした。

今では入店時が嘘のように変化した。
お客様から「よく笑う娘」と言われ、事務所に入ればスタッフが笑顔になり、ちょっとした会話をすれば皆爆笑して事務所の空気が柔らかくなるのがわかるようになった。
人が楽しそうにしてくれたり、大きな声で笑ってくれる瞬間が私は大好きだ。

ちなみに、支度台の大きな鏡は今でもかかさかず置き、笑顔の練習こそしなくなったが常に最良のコンディションで仕事に入れるよう、自分を見る習慣は抜けていない。